2011年1月の記事
1月25日、奈良県橿原市商工経済会館で開かれた「吉野林業の明日にむけて」と言うフォーラムに、郡裕美がパネラーとして招待されました。杉の産地で有名な吉野の林業を取り巻く状況について話し合い、新しい可能性を探るという趣旨で催された会です。国産の材木価格は、この10年間ですっかり下落し、吉野にある多くの関連企業は廃業に追い込まれ、また、山の手入れをする山守の後継者問題も浮上し、林業は、危機にさらされています。木の家に住む伝統のある日本人にとって、建築にかかわる私たち設計者にとって、とても重要な問題なので、フォーラムの内容をかいつまんでご報告したいと思います。
「吉野林業再生の課題と方向」
まず、京都大学院農学研究科の川村誠先生のとても興味深い講演があった。吉野は、400年近く育て続けられて来た人工林としては世界でも珍しい存在であり、歴史的な価値があることを指摘された。でも、吉野がなぜ400年もの間、林業を守ってこれたかというと、そこに素晴らしい経営の知恵があったからだと言う。山の所有者とそれを管理する山守が分かれており、所有者は、投資することで利潤を得、山守は、管理することで生活費を得ていたらしい。こうすることで、山守は、複数の所有者の山をまとめて効率よく管理することができ、所有者は、小口の投資も転売も可能になり、山を投資資産として考えられる。吉野の山は、早くから今でいうところの「ファンド化」されていたということになる。
「吉野林業の明日に向けて」
講演の後、奈良女子大学の生活環境学部の藤平眞紀子先生が進行役となって、パネルディスカッションがおこなわれた。川村先生が指摘されたように、不便な場所にありながら、高度経済成長時以降、日本全国に吉野杉というブランドを行き渡らせた情報発信力に特徴がある吉野だが、時代が変わり、新住宅を建てる時に純和風の座敷をつくることが稀になった今、ほとんどブランドの意味が無くなっている。町の工務店ネット代表の小池一三氏、清光林業株式会社会長の岡橋清元氏、そして、スタジオ宙代表の郡裕美が、会場の参加者と共に、どうしたら、新たなニーズ、流通形式が確立できるかということ、また、どうしたら、山を維持するシステムができるのかという事について討論した。
「郡 裕美 私見」
真壁構造の純和風な住宅デザインが、これから再び日本でポピュラーになることは無いと思う。つまり、和風の造作材で有名な吉野だが、今後は、時代のニーズに合った新しい吉野杉の使い方を発見していかなければならない。既存の建築スタイルに囚われない新しいデザインを模索し、インターネットや宅配便など新しい流通形式も取り入れながら、新しい木の文化をつくり、新しい市場を開拓することが必要だと思った。
木漏れ日が神々しく差しこむ吉野の山林。機会があれば、いちど訪ねてみてはいかがですか?住宅が建てられている木材が、どんな風や光を感じながら森で育ち、どんな人たちの手で大切に守られてきたのか、感じながら暮らすというのは、生活にもうひとつの奥行きと楽しみを与えてくれるきっかけになると思いました。
投稿者:Yumi Kori |
講演会 Lectures |
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2011年1月17日。阪神淡路大震災から16年目の日。神戸国際会議場において開かれた、“木の家”耐震改修大勉強会 in 神戸にて、分化会3「耐震改修・そして本格改修へ」で、郡裕美が講師として事例発表をしました。全参加者は1003名。住宅耐震化をテーマとするイベントとしては空前の数の参加者でした。
また、会議が終わった後、震災で亡くなった方への追悼をこめて開かれた、メモリアルの舞台美術を郡裕美が担当し、静かで美しいフィナーレになりました。
震災体験手記の朗読:草野満代(アナウンサー)、チェロ:太田道宏(関西フィルハーモニー管弦楽団)、ピアノ:革島玲奈、須磨ノ浦女子高等学校新体操部による新体操演技
光によるインスタレーション・アート:郡 裕美。ガブリエル・フォーレ『チェロとピアノのためのエレジー』という大変美しい調べとともに、光を使った空間アート作品を作りました。舞台上に吊り上げられた、何の変哲もない白い木片が、家型から山並みへ、地震計を思い起こさせる赤い稲妻から倒壊した家屋になり、やがて、美しい山にもどる…という、一編の詩のような世界が、出来上がりました。
写真:市川かおり
この舞台のインスタレーションは、香川県の金丸工務店、藤田薫社長がしっかり部品を作って、わざわざ四国から運びこんで下さり、また、神戸国際会議場の舞台監督を初め、スタッフの皆様のご尽力のおかげで実現できました。そして、何よりも、町の工務店ネットワークの代表小池一三氏のご理解なくしては、実現できませんでした。
本当にありがとうございました。
投稿者:Yumi Kori |
美術の仕事 Art, Stage Design |
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2011年1月17日。耐震改修大勉強会 in 神戸で、郡裕美が講師を務めます。阪神淡路大震災から16年目の日に、養老孟司さんが耐震改修推進会議議長となって、神戸国際会議場で大勉強会が開かれます。詳細は、こちら。http://t95.jp/kobe-schedule.html
地震と震災は、違います。神戸の大地震が大きな大震災を引き起こし、多くの方が亡くなられた原因のひとつに、木造住宅の耐震性が弱かったことがあげられます。
全国から集まった工務店、建築設計士、それから林業関係の方々、行政関係者などが、一堂に会して住宅の耐震化について勉強しようという会議です。その勉強会の中で、「耐震改修・そして本格改修へ」という分科会があり、そこで、スタジオ宙の郡 裕美が、事例発表をしながら、リノベーションや改修、リフォームや改装の様々な可能性について語ります。題して「アートリノベーション」のススメ。強いだけでなく、美しく、楽しい住まいを作る創造的リノベーションの手法を紹介します。
(参考事例写真)京都の長屋のリノベーション、左が改装前写真、右が改装後の写真(スタジオ宙の設計)
アート・リノベーション
—「文化的」住宅改修のススメー
強いだけでは物足りない。もっと美しく、もっと楽しく生まれ変わりたい!
スタジオ宙(みゅう)一級建築士事務所 代表 郡 裕美(こおり ゆみ)
耐震診断、消防検査、室内環境汚染のチェックなど、ハード面から住宅建築を診断し、強くて安全な建物に生まれ変わらせることは、とても重要なことです。でも、住宅を改修する時、そういったハードな視点をもつだけでは、十分ではありません。住宅の持つソフトな側面、つまり、居心地良さや楽しさ、美しさなど「文化的側面」も考慮して改修する必要があります。なぜなら、住まいは、私たちの体だけでなく、心を入れる容器でもあり、身体の安全が確保されただけでは人間は幸せになれません。また、住宅は、そこで新しい命を育み、生活を通じて文化を次世代に伝える為の重要な教育的、文化的資産でもあるからです。
残念なことに、現実に建っている住宅を見てみると、それら住宅の文化的側面が充分考えられて設計されているものは、あまり無いように思います。ですから、耐震改修という大がかりな工事を行うとき、ソフト面からみた住宅診断を同時に行う必要があるのです。
1. 地域社会と適度に交わり、2.自然と親しみ、3.居心地の良い空間があり、4.家族の関係性に合った間取りで、5.機能的で働きやすく、6.適材適所に収納があり、7.家族の増減に対応でき、バリアフリー化が可能な計画。8.建物に楽しくて、美しさに感動できる芸術性があり、9.緑化、自然エネルギーを積極的に利用するなど環境共生型の住まい。これが、私の考える理想の住まいです。良い住まいというのは、それらの要素が、バランスよく満たされていることだと思います。
今回の「木の家」耐震改修大勉強会の機会を借りて、住宅の改修をする時に、耐震改修などのハード面に加えて、住み手の人間関係や、そこで展開される生活の質など、ソフト面から住宅を診断し、それを改修する方法をご紹介したいと思います。
ソフト面から見た住宅診断9項目
診断1.町との関係はうまくいっているか?
診断2.自然と触れ合う場があるか?
診断3.どこの場所も快適で居心地よいか?
診断4.家族関係に合った間取りか?
診断5.動線計画は、合理的か?
診断6.収納量、収納方法、収納場所は、適切か?
診断7.家族の成長に対応できるか?
診断8.建物に美しさ、楽しさがあるか?
診断9.環境に配慮しているか?
上記の項目に従って、住まいの各要素を診断し、良くない点を改修するようすれば、耐震改修だけに留まらず、本当の意味での質の高い住まいを作ることができます。
様々な事例を通して、アート・リノベーション、「文化的」住宅改修の設計手法についてお話しさせていただきます。
投稿者:Yumi Kori |
講演会 Lectures |
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— 葉山海の家 ルーフテラスの写真 —
あけましておめでとうございます。
今年も精一杯がんばりたいと思います。
皆様にとっても良い一年となりますように。
スタジオ宙 一同
投稿者:admin |
日常風景 Diary |
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