記憶をカタチにする作品: EVOCATION 制作の意図と背景@箕面瀧安寺
— The presentation panel at the exhibition " Evocation" —
展覧会が始まってから会場に何度も足を運び、観客の方々と対話を重ねるうちに、だんだん自分の作品に対する理解が深まって、やっと自分がここで何を作りたかったのかということを言語化できるような気がしてきた。
EVOCATION というのは、想起するという意味で、2018年の台風で失われた瀧安寺の庫裡(寺の台所)の記憶をカタチにし、記憶の空間と時間を体験するインスタレーション。
会期終了まで3日を残す今、改めて今回の作品の背景やコンセプトについて語りたいと思う。
今回のサイトは、阪急箕面駅から箕面川にそって緑溢れる滝道を徒歩15分ほど歩いたところにある瀧安寺の境内。本殿の右側、箕面川を渡る瑞雲橋という赤い橋を渡った高台にある。対岸からは山を背景に鳳凰閣、客殿の建物が見える。橋を渡って坂を登ると、門の前には空き地があり、門扉にはかつてそこに建っていた庫裏の大屋根の建物の写真が貼られてあった。
2018 年の台風で裏山の欅の大木が屋根に倒れ込み、瀧安寺の甚大な被害を受け、大破したという。そして、客殿はなんとか修復したものの、庫裡は修理も叶わず解体されたことを知った。
そこで、住職に話を伺いながら庫裡について調べてみることにした。瀧安寺は、修験道の創始者と言われる役行者の由来で7世紀に建てられた寺で、古代より多くの修験者を支えてきた。修験道は日本古来の山岳宗教で、厳しい修行を通して「験力」を得て人々の救済を目指す実践的な宗教で、自然とのつながりを大切にする。客殿と庫裡は、1699年、元禄の時代に建立され、鳳凰閣は昭和に入ってから建築家の武田五一が設計したという。
庫裡は寺の台所で、自然の恵みである食物を修験者に施す存在であった。かつて里の人々がここで料理し、修験者その施しを受け、やがて修行で「験力」を得ると自分の里に戻って人々を癒したという。かつて庫裏の中心にあった土間のカマドの上部には煙抜きのための越屋根があり、そこから同時に、光と風を取り込み、人と大地と天空をつなぐ仕掛けであった。
箕面瀧安寺 客殿と庫裡跡 2018年の台風被害
客殿とつながって庫裡(台所・岩本坊)があり、越屋根(かまどの煙抜き) が見える。
庫裡はお寺の台所として瀧安寺の重要な役割を果たしていた。外観を特徴づけている越屋根の下の土間には大きなかまどがあり、そこで煮炊きされた食事は修験者に供されてきた。
2018年に発生した台風21号によって倒れたケヤキの巨木が庫裏に直撃したことで、大屋根が陥没し、建物は大破する。古来から食を施して修験者を支えるという重要な役割を担っていた庫裡。その記憶をかたちにするサイトスペシフィックな作品を作りたいと思った。
かつての航空写真をみると、庫裏は、かつて客殿とつながった大きな建物であったこと、大きな屋根の上に越屋根があったことがわかった。そこで、住職に頼んで昔の話を聞かせてもらった。かつて庫裡には大きな土間の台所があったこと、そこに村の人々が食べ物を持ち寄り、炊き出しが行われて客殿に運ばれ、多くの修験者に食を施したこと、暗くて寒い土間の天井を見上げると幾重にも重なった木造の架構が美しく、煙抜きの越屋根からはかすかに光が差し込いたことなど、様々な空間の記憶を聞かせてもらった。そこで、解体前の建物の実測図を見せてもらい、かつての庫裡の建築の大きさや構造を知り、かまどや越屋根の位置を割り出し、またかつて客殿と繋がっていた廊下の位置も特定した。
そして、私は、その失われた建物の記憶を4つのアートのカタチで表現することにした。
■クウカンノキオク (空間の記憶)
2018年の台風で大破した庫裡の建物の柱割を白糸で縄張りした作品です。糸を頼りにを敷地をめぐり、今は見えない壁を想像し、その中に入り、部屋の大きさを感じ、失われた空間に思いを馳せ、空間の記憶、記憶の時間を感じてみて下さい。建物の高さは現在の客殿と同じくらいあり、床面積もとても広かったことがよくわかります。
■コシヤネノキオク(越屋根の記憶)
庫裡の建物の中心にあり、最も重要な特徴である越屋根をなぞった形の作品です 。かつてカマドの熱や煙は越屋根を介して空へ抜けていき、ここから天光も入ってきました。作品に入り、空を見上げ、赤く燃える炎のメラメラを想像し、失われた越屋根の記憶に思いを馳せみて下さい。この小さな建築は、外から見るとミラーテープに覆われているため、周りの風景を写しこみ、その姿は常に変化します。見る人の角度によって、建物が見え隠れし、また、太陽光が変化し、風向きが変わるたびにその表情を変えます。
作品の中に吊られている石は、もとはこの大地の一部でした。重力のベクトルが空を希求する記憶も視覚化します。
■ ツナガリノキオク(つながりの記憶)
かつて、客殿と庫裏は廊下でつながった一つの建物でした。そこで、解体前の庫裡と客殿がつながっていた廊下の部分に玉石を並べたインスタレーションを作りました。客殿の中と外、両方に注目してください。かつて庫裡で作られた食事は客殿に運ばれ、修験者に振る舞われました。自然の恵みを象徴する餅のイメージを白い玉石に重ねました。(客殿の中に展示してあるパネルの下には、作品のモデルがありますが、そちらでは、白い石の代わりに本物の米を使っています!)失われたつながりを想像してみて下さい。
■ホドコシノキオク(施しの記憶)
餅や飯を想起させる白い玉石をひとつ手にとって、かまど跡に建てられた「コシヤネノキオク」の周りに並べて下さい。自然の恵みに感謝して、土と火と空に「施し返し」をすることをイメージして、参加者の方々に参加していただきたいと思いました。かつて越屋根の下にあったカマドには、自然の恵みである米や野菜が運ばれ調理され、それが客殿に運ばれ、修験者を支えました。かつて修験者が受けた施しの返礼を行うことで、施しの心が世界に広がっていくことを願いました。
□作品制作はワークショップで
また、今回の作品を多くの人の協力で実現できました。実際の建設は、郡が教鞭をとる大阪工業大学の郡研究室+有志が中人になって、ワークショップ形式で行いました。
This is a site-specific art installation realized on the site of Ryoanji Temple in Minoh mountain, Osaka, which was founded in the 7th century. The temple’s “kuri” building (former kitchen) was completely destroyed by a typhoon in 2018. The kitchen was important to the temple because it supported ”shugendo”, Japanese indigenous religion through the provision of food to practitioners. The lost “kuri” had a ”kamado” (earthen floor stove) and a small hip roof above it for ventilation and sky light, and that created a strong connection between the ground and the sky. Therefore, through my work, I wanted to evoke the memory of the lost architecture and reconsider the meaning of the “kuri”.
EVOCATION 箕面の森アートウォーク2023参加作品
Yumi Kori
ワークショップ実施:10月13日・15日・18日・19日
協賛: 総合資格学院
制作:大阪工業大学 郡裕美研究室+有志, スタジオ宙, 越智工務店 ,
アルテ・アバン , studio_C , mtit
投稿者:Yumi Kori | メディア掲載 Press Publication | 記事本文