「中心のある家」で中心を見つけた。
— Wondering the meaning of center at "the House with Center" —
私が若い頃にお世話になっていたアルテック建築研究所の所長宅、阿部邸に伺いました。「中心のある家」と名付けられたその住まいは、雑木林に埋もれるように建っていました。タイ国であつらえたという美しい木彫りのドアを開けてさあどうぞと迎えられ、一歩足を踏み入れるとそこは、なんとも言えない柔らかな香り がする空間でした。家の中を自由に見てくださいという言葉に甘えて家の中を歩き回った末に、2階の角でわたしが窓の外を見ながら突っ立ていると、「座ってみなさい。気持ちいいから。」と阿部さんに促され、2階のデイベッドに腰掛けました。そこは、どこかデカダントな雰囲気につ つまれていて、オレンジ色の夕日と木漏れ日のキラキラが美しく、体の芯から幸せな気持ちがわき上がってくるのがわかりました。やはり建築は、その場の空気を吸って始めてわかるのだと思いました。
2階の真ん中にコンクリートの壁で囲われた部屋の中に、この天窓があるのを見つけました。そのときわかったのです。「中心のある家」でありながら、この家が不思議なことにちっとも求心的でないわけが。きっとこの家の中心は、この家の中にないのです。中心はこの天窓のむこうにある空。住まいはこの窓を通じて宇宙につながっていて、天からエネルギーがこの家に注ぎこまれ、それが家を通して静かに世界に浸みだしているような気がしました。だから、この家ではエネルギーのベクトルが内向きでなくて、外向きに感じるのだと思いました。
11月の美しい秋晴れの午後、「中心」の内外に散らばるたくさんの居心地良い場所を訪ねながら、至福の時間を過ごさせていただきました。