感受性を保ちながらも感情を動かされないスキル
— Decreasing our Sensibility to Survive in the City —
昨日、精神科医の方とワインを傾けながら、いろいろお話しする機会があった。都市に住む現代人(大人も子供も)は、知らないうちに周囲に対する感受性のレベルを下げて生きており、様々なことに対して無反応、無感動になっている。かといっていたずらに感受性を高めれば現代社会に適応できなくなってしまうというジレンマがある。高速道路などで本来感じるはずの危険を感じないように感受性を抑圧しながらも、非常時には機敏に対応できるための野生の感性を密かに保ちつつ運転するという不思議なスキルが要求される。周囲の状況やそこから起きるリスクを認識しながらも反応しないが、必要に応じて反応できるように心の準備をしておくという、大変高度な精神状態コントロールの技術が、都市に住む現代人には求められている。問題は、いつも感受性を押さえて生きているばかりに、人々が危険を感じる能力が低くなってきていること。海外で日本人が盗難に遭いやすいこと、振り込み詐欺などに引っかかりやすいことなどは、この問題に関連しているように思った。 また、いちど精神を病んで社会から隔離されてしまうと、医療を施して症状が改善したことによって起きる『目覚め現象、アウェイクニング』が本来なら医療の成功であるはずなのに、患者本人だけでなく周囲から必ずしも喜ばれることではないという、病と病院、患者と社会との関係については、今まで考えたこともないトピックだった。
そこに居るだけで気が滅入ってしまう病院の宿直室のはなしも、とてもおもしろかったです。南面の窓の前にあるクーラーの室外機の風景、目線の位置がづれて見える不揃いの事務机。当直の医師の8割方の方が同じような不快な感情を持たれているらしい。空間と人の心の動きの関係に関して、精神科医の方と話すのは本当に貴重な体験。建築家だけでは、なかなか説得力のない話でも、精神科医の方の協力を得れば、建築のソフト面の話を人に理解してもらえる様な気がする。