月雫
京都御所の清和院御門の眼前に建つこの住宅は、大正時代に建てられた大変ユニークな町家だった。度重なる増改築のおかげで建設当初の趣は失われていたが、玄関庭、中庭、奥庭という3つの庭が室内と絡み合う空間構成が魅力的で、何度か現場に通ううちにすっかりこの建物の虜になってしまった。そこで、そこに残されていた思い出の光を拾い集めるようにしながら、現代に蘇らせることにした。傷んだ木部を接ぎ木し、小舞を修復して土壁を塗り、古材や既存建具を再利用し、また、京唐紙や敷瓦用い、伝統的な技術や素材に支えられた奥行きのある陰影を生み出した。そしてこの土地が古くは藤原道長の居宅後の一角であったことから、彼の有名な和歌の「望月」から着想を得て、家の方々に月のかけらを散りばめたデザインにした。
京都市中京区
町家の改装 床面積179㎡
写真 / 傍島利浩(C)、スタジオ宙