衣笠の家
西大路を左にそれて原谷に向かうと、京都の空気は心持ちひんやりし始める。この家はその坂の途中にひっそりと建っている。施主は、定年退職を期に亡き父の想い出を秘めた古い邸宅を取り壊し、終の棲家を建てることを望んだ。そこで、見事な北山杉など敷地の庭木を残しながら、香草庭、竹林、テラスなど様々な性質の庭を設け、自然と触れ合う静かな住まいを設計した。流れるような平面プランは、手漉きの美濃紙障子で仕切られ、居間、書斎、厨房、それぞれの場所から違った景色が楽しめる。時折訪れる母の為に、茶室も付随させ、住まい自体を茶室の露地と見立てた。住まいは、露地によって拡げられ、あるいは囲われる、父の想い出と共にある「市中の隠」となった。
京都市
木造平屋写真/スタジオ宙